冬の乾燥肌には漢方薬がオススメ!
最近、気温がぐっと冷えてきましたが、それに伴って増えてくる相談の一つが乾燥肌に関するお悩み。
冬は大気中の湿度も下がる上に室内も暖房でカラカラ。
更には冷えによって血流が低下して体の中からも潤せなくなるので乾燥肌はどんどん悪化してきます。
このような乾燥肌でお悩みの方には保湿クリームもいいですが、冷えを改善しながら潤いを全身に届けてくれる漢方薬はとってもオススメです。
72歳女性の皮膚のかゆみに対する漢方治療例
さて、今回紹介するのは前回までの帯状疱疹に引き続き、朱先生の皮膚掻痒症の症例です。
72歳と高齢の方の症例ですが、症状が同じであれば年齢関係なく対応できますのでぜひ参考にしてみてください。
●《初診1974年10月21日》
【主訴】:全身の皮膚の痒みがもう4ヶ月も続いている。
【現病歴】:この4ヶ月ほど全身の皮膚の痒みがひどい。特に夜間に悪化し、夜も寝付けないほど痒い。今までに涼血清熱、去風除湿の漢方薬を服用したが、未だに軽減みられない。大便は乾燥して固く、5日に1回出る程度である。
【検査】:全身の皮膚は乾燥して弛緩し、掻きむしったあとが見られ、薄く鱗屑様のかさぶたとなっている。脈弦滑、舌質紫、舌苔光。
【中医診断】:老年性皮膚掻痒症
【証属】:老年血虚陰傷、皮膚失養、風勝則燥、風動則痒。
【治則】:養血潤燥、活血去風。
【処方】:当帰12g 白芍9g 熟地黄30g 玄参9g 麦門冬9g 牡丹皮9g 紅花9g 荊芥9g 白蒺藜9g 麻子仁9g 甘草6g ×6 水煎服
●《第二診》
10月31日、薬服用後、皮膚の痒みが明らかによくなり、夜も寝れるようになった。脈弦、舌質紫紅、苔浄(きれい)。同じ処方を継続服用6日分
●《第三診》
11月16日、服用後掻痒感は既に軽減していたが、最近また痒みがひどくなって、掻いた後に赤く小さいぶつぶつができる、大便はまた乾燥傾向。脈弦細、舌質紫、舌苔光、中心薄黄。処方を以下のように加減
【処方】:当帰12g 赤芍9g 桃仁9g 紅花9g 玄参9g 荊芥9g 白蒺藜9g 牡丹皮9g 麻子仁9g 甘草6g ×6 水煎服
●《第四診》
1975年1月9日、皮膚の痒み軽減。胸・腹・腰の周囲・背中に尚痒みあり、脈弦、舌光剥、中薄黄。10月21日の初診時処方を6剤
1975年5月、連絡をとったところ、已に全治したとのこと。
※参考文献:朱仁康.朱仁康臨床経験集-皮膚外科.人民衛生出版社 2005.
彩り漢方薬局による考察
【血虚生風(けっきょせいふう)】
全身の皮膚が乾燥しており、また舌苔光、大便乾燥して便秘、更には72歳という年齢などから考えると、全身を潤すための陰血が不足していることは容易に推測できる。
中医学には、体を潤すための成分(陰血)が不足すれば痒みが出るという「血虚生風」という考え方があるが、今回の症例はズバリこれに当てはまる。
また夜間に痒みが悪化するということから、血虚だけではとどまらず、陰虚の段階まで進行していることも考えられる。
よって治療方法は不足した陰血を補う滋陰養血と、痒みを抑える熄風止痒を組み合わせた治法となる。
【処方解説】
処方を大雑把に分析すると
- 滋陰養血:当帰、白芍、熟地黄、玄参、麦門冬、麻子仁
- 熄風止痒:荊芥、白蒺藜
- 活血化瘀:紅花、牡丹皮
というように分けられる。
紅花、牡丹皮などの活血薬は、滋陰養血薬によって体内の潤いとなるものを皮膚表面まで届けるための血流改善を目的としており、当帰、芍薬も少しではあるが同様の働きをする。(※熟地黄、麦門冬、玄参にはその作用はない。)
【当帰飲子だけでは不十分】
今回の症例に対して、日本のエキス剤で対応する場合には「当帰飲子(とうきいんし)」という漢方薬が構成から考えるとよく似ているが、「当帰飲子」には残念ながら滋陰剤(玄参、麦門冬、生地黄など)の配合が少ない(地黄のみ)。
また陰虚による虚熱を抑える清虚熱薬も含まれていないため、「当帰飲子」単独ではなく、他の方剤及び単味の生薬を加減する必要がある。
そのため夜間の痒みを抑えるには「玄参」や「麦門冬」などの滋陰剤に「地骨皮」、や「知母」、「黄柏」などの清虚熱作用のある生薬を含んだ方剤(例えば滋陰降火湯や知柏地黄丸など)を合方するほうが、この症例に対してはより適切かと思われる。
また便秘もあるので陰血不足による便秘に使用される「麻子仁丸」を合方するとより効果的である。
まとめ
このように乾燥による皮膚のかゆみには漢方薬がとても有効な場合があります。
保湿クリームでいくら外から潤しても体の中がカラカラに乾燥していてはいつまで立っても根本解決にはなりません。
今年こそ体の中から保湿したい!